今年もドイツから選り抜きの新作が届けられる。まず素晴らしいのは、過去に多くの映画賞に輝いてきたカロリーネ・リンクとファティ・アキンという若き実力派監督の新作を紹介できることだ。アカデミー賞外国語映画賞に輝いた『名もなきアフリカの地で』(2001)以来、7年ぶりにリンクが発表した『冬の贈りもの』は、肉親の自殺によって生じた心の空洞を抱えた人々が〈未来への道〉を模索する感動的なドラマである。アキンのベネチア映画祭で審査員特別賞を受けたばかりの『SOUL KITCHEN』は、自身が生まれ育ったハンブルクへの愛情をこめた〈郷土映画〉でありコメディーであるというのだから見逃せない。
次に注目されるのは、ドイツもしくは〈ドイツの歴史〉を楽しめる作品が揃ったことだ。『ドイツ2009』は、〈ベルリンの壁崩壊〉20周年を期に、13人のトップ監督が集結して〈現在のドイツ〉像を多面的に浮かび上がらせようとした意欲的な短編集だ。『ヒルデ』は、ナチ時代末期にデビューしてのちに世界的スターとなったヒルデガルト・クネフの女優・歌手としての軌跡を追うことで、〈ドイツの戦中・戦後〉という時代そのものをくっきりと浮かび上がらせる秀作である。さらに、文豪トーマス・マン(1929年ノーベル文学賞受賞)の代表的長編小説を映画化した『ブッデンブローク家の人々』は、19世紀のハンザ都市リューベックを舞台に、名門商家の人々がたどる運命を描き出した重厚な作品としてお薦めできる。
そして今回もっとも喜ばしいのは、ミュンヒェン映画・テレビ大学で学んだ宮山麻里枝による、すでに国際的な成功を収めている監督作『赤い点』をご覧いただけることだ。日独 文化を知りぬいた宮山が繊細に表現する日本人女性とドイツ人家族との魂のふれ合いは、観る者の心を揺さぶらずにはいまい。
瀬川裕司
今年は特別上映として、少し前に世界的なヒットを記録した2本、今日のMTVにも強い影響を与えていると言われている『ラン・ローラ・ラン』と、キャリアウーマンが自分を見つめなおす様子を描く心温まる作品『マーサの幸せレシピ』を上映します。また、ドイツの全映画大学の学生による短編のなかから選び抜かれた最新の傑作選集『ネクスト・ジェネレーション '09』もご紹介しますので、ぜひこの機会にご覧いただきたいと思います。